【コラム】by マササ・イトウ Vol.1 ブルズのボールスクリーンへのディフェンスについて
BFiJ:ツイッターでいつも凄まじい分析力を披露しているマササ・イトウさんに飲みの席で「コラム書いて欲しい!」と駄目もとで言ってみたら許諾してくれちゃって歓喜。ブルズネタじゃなくてもなんでも良いですよと伝えたのに一発目はブルズについて書いてくれちゃいました。

はじめまして。ブルズファンではないにも関わらず、ずうずうしくもコラムを書かせてもらえることになりましたマササ・イトウです。ブルズは優勝から遠ざかっていますが、選手や戦術はリーグに影響を与える中心的な役割を担っていると私は思っています。なので、ブルズファンではないのですが、ブルズの試合やBFIJさんのブログは気になってしょっちゅうチェックしています。

今回は、そんなブルズのボールスクリーンに対するディフェンスについて、インタビューや試合動画などからまとめてみました。

記事などから主なコンセプトは3つあることがわかりました。

1. Push/Ice(一方のサイドを使わせる)
概要
ボールをマークする選手は、ボールスクリーンを使わせないように動きます。これはプッシュと呼ばれる守り方で、以下のようにボールをマークする選手がスクリナー側に動くことで、ユーザーにスクリーンを出来る限り使わせないようにします。

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また特にサイドスクリーンに対するこの守り方はアイスと呼ばれています。

目的
シボドーコーチは、このアイスについて質問され、敵チームに「一方のサイドだけを使わせる」ために「出来る限り中央から離れた場所でプレーさせる」とコメントしています。ピック&ロールが増えたこと、ルール変更と試合の変化により、よりシューターが増えていること(以前よりも3番が4番をこなすようになる、など)を理由として挙げています。

明言はされていないものの、シュート力のある敵チームに、両サイドからコートを広く使って攻められると守ることが困難であり、片方のサイドだけを使わせる戦術を使っていることがよくわかります。

2. Soft/Zone up(ミドルを打たせる)
概要
下の図のようにノアやギブソン、ブーザーはペイントエリアの周辺まで下がっています。また、シュートが打てないガードの場合を除き、ボールディフェンスはスクリーンの外側を通りドリブラーにプレッシャーをかけます。

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前に出来たスペースでシュートが打たれた場合には、アグレッシブにクローズアウトを行います。
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あくまでもペイントへのドライブを防ぐためにビッグマンが下がり、ミドルシュートを打たせるという狙いが見えます。また、ミドルシュートも簡単に打たせるのではなく、下がった位置から邪魔をするような動き(クローズアウト)が必ずあります。極端な例ですが、ステファン・カリーへのスリーにもノアはここまで対応しています。

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結果として、敵チームのボールスクリーンからの攻撃はほとんどがユーザーまたはスクリナーのミドルシュートになります。敵チームのミドルシュートの割合を見ると、ブルズはシボドー就任後の4シーズンでリーグトップクラスです。(数値はnba.com)

敵チームのミドルシュートの割合

シボドー就任前
09-10年 リーグ16位 31.3%
シボドー就任後
10-11年 リーグ2位 35.5%
11-12年 リーグ1位 35.8%
12-13年 リーグ2位 33.7%
13-14年 リーグ1位 32.4%

3. Two men game(2人で守り切る)
概要
ボールスクリーンに対してブルズはボールディフェンスとスクリナーディフェンスの2人で極力守り切る形を取ります。要は他の3選手が出来る限りヘルプをしないということです。

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目的
シボドーは「オーバーコミットによりキックアウトパスからコーナースリーをオープンで打たせたくない」と語っています。上のプレーではスネルがそのルールを正に守っていることになります。

また、これを可能にするためには4、5番のどちらからスクリーンをかけられても、ビッグマンがペイントとミドルシュートを守り切る必要があります。これは、スモールラインナップと呼ばれる、4番に従来の3番を配置するラインナップをブルズが取らない理由の一つと考えられます。スタン・ヴァンガンディはこちらでブルズのディフェンスが強固である理由として、4、5番をビッグマンで固定していることを挙げています。

また、シボドー自身もビッグマンを2人使うことに触れています。

訳抜粋:

シボドー「それがジョアキムとタージの強みなんだ。相手チームが我々相手にスモールボールを起用してきた時でもビッグマンを残してリバウンドでアドバンテージを取ることが出来る。我々はそれを好んでいる。」

参考:
http://grantland.com/the-triangle/qa-tom-thibodeau-on-the-bulls-offseason-derrick-roses-return-and-where-in-the-world-is-joakim-noah/
日本語訳:
http://bfij.net/2013/07/22/tom-thibodeau-qa/

結果として、ミドルシュートと同様に敵チームのコーナースリーの割合を見ると、ブルズはシボドー就任後の4シーズンでリーグトップクラスです。(数値はnba.com)

敵チームのコーナースリーの割合

シボドー就任前
09-10年 リーグ23位 6.3%
シボドー就任後
10-11年 リーグ2位 4.7%
11-12年 リーグ1位 3.5%
12-13年 リーグ1位 4.5%
13-14年 リーグ1位 4.3%

ここまでが主なコンセプトになりますが、大切なことを付け足さなければなりません。
実は、ブルズは相手チームに合わせて、ディフェンスを柔軟に変えています。こちらの動画では、スクリナーが良いシューターであればローテーションをしたり、1番~3番のスクリーンではスクリナーディフェンスが下がらないショウを見せたり、勝負どころではスイッチやダブルチームを仕掛けるなど、ブルズがどんなディフェンスも必要に応じて実行できる完成度の高いチームであることがわかります。

また機会があれば、①このオンボールディフェンスにより影響を受けた他チーム(グリズリーズやペイサーズ)の分析や、②このディフェンスとウィザーズはどう対峙したのか(ディフェンスのどこが崩されたのか)、③来シーズンどうなりそうか、などを紹介できればと思います。

マササ・イトウ

11 コメント

  1. 素晴らしい記事をありがとうございます。
    日本語でのこういう戦術分析記事って中々なくて、これからも機会があればどこかで書いて頂きたいです

  2. いわゆる「良いディフェンス」の根底的な概念て昔から変わらないと思うんですが、「良い」の概念をこのように戦略的・分析的に構築されているのを教えてもらうと、頭の中がすっきりしますね。
    今後も書いて頂きたいです。

  3. これは凄い!数字に裏付けられた分析は説得力抜群です。こういう風に解説して頂けると見る楽しみが増えます。戦略やシステムが理解出来る説明の仕方は参考に成ります。クオリティの高い記事をアップして頂き有り難う御座いました。

  4. なんといっても読んで分かりやすいというのがいいですね。
    長文にならず効果的に合間合間、動画や数値化した表を入れるのは飽きさせない工夫だと思います。
    楽しく読ませていただきました!

  5. みなさまコメントありがとうございます。
    マササさんのコラム大反響でとても嬉しいです!
    またお時間ある時にブルズ問わずいろんな形で書いていただきたいと思っていますので、僕の飲み屋での説得が上手くいくことを祈っていてください(笑)。

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